ピアニストの方よりオンライン配信のご感想を頂きました。ご本人の承諾を頂き匿名でご紹介させて頂きます。
この度は映像を拝聴させていただき本当に有難うございました。
冒頭のデュフリでは精緻を極めたフランス様式をじっくり味わうこ とができました。「アルマンド」 では音の微妙な揺らぎが心地よく、 一気に18世紀のベルサイユ宮殿へ誘われたようでした。「 クーラント」の次第に熱気を帯びる曲想には、 フランスのもつ狂気じみたものを感じました。一転して「三美神」 は、音が天上から一粒一粒こぼれ落ちてくるようで、 神々しさがありました。長大な「シャコンヌ」では、 毅然とした3拍子のリズムの上でさまざまなドラマが表出されまし た。万華鏡の様に移り変わる旋律ですが、 聴き進むごとに前曲までには感じなかった、当時の民衆の声や、 戦いの描写のようなものが私には聞こえてきました。
次のバッハ「半音階的幻想曲とフーガ」は、 解説して下さったようにキリストの受難をイメージして聴いてみま した。 前半の縦横無尽に駆け巡るパッセージにさまざまな変化と意味が与 えられ、続く語りの部分へ見事に繋いでいたのが印象的でした。 白眉はやはりこの語りの部分で、 様々な声色を使い分ける名優のようでした。 この世の終わりのような幻想曲の最後から、 その空気をまといつつも上行する動きが目立つフーガは、 キリストの再生や人々の希望をも表すようでした。
スカルラッティのK.213はフランス的な繊細さとは違う、 イタリアの造形美を聴く思いでした。K. 141は曲調にスペイン的なものがあり、 手の交差や跳躍など演奏者にとって一か八かのような箇所でも危な げないテクニックで目を見張りました。
最後の「イタリア協奏曲」 は両端楽章でのレジスターの交替も興味深かったですが、第2楽章 のリュートの音色に乗ったカンタービレの歌は、 スカルラッティの1曲目と呼応する絶妙なプログラミングで感服し ました。伴奏はインテンポを保ちつつ、 絶妙な間合いで旋律を歌わせてらっしゃいました。 私もピアノでショパンやモーツァルトを弾く時のお手本にしたいと 思います。
最後は日本に降り立ってさくらのメロディ、 70分のヨーロッパの旅を楽しませていただきました。