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claveciniste et pianofortiste

私のチェンバロ装飾ほぼ終了!/La decoration de mon clavecin

今日は、私のチェンバロを見に再びChantillyという隣町の画家のアトリエに行ってきました。

1ヶ月前に見に行った時は、ブルーのはずのチェンバロが真っ黒になっており、
一瞬????
イメージと全然違う・・・・

でも、まあいいか。ということになりましたが、知らない間に描かれていた茶色のラインがどうしても気に入らなかったので、金箔にやり直しましょうか?!?ということになり、
今日その出来具合を見に行きました。
この画家の方はアンテイークの絵画の装飾をメインにしていて、以前にオリジナルの17世紀のチェンバロを修復しています。
その時は、今の様に金箔のラインを付けたあとに、上から薄く色を塗って、さらにアンテイークっぽく見えるように仕上げて、(シミなどを描くそうです)ニスを塗ると、だいぶ金色が落ち着いて見える・・・
ということでした。

前回に予定なく描かれた天使は取り消して、この軽いお花の絵に生まれ変わりました!
ので、最終段階の仕上げをして2週間後に無事にドイツのチェンバロ製作者が
フランスに8時間ドライブをして取りに来ます。
そしてやっと、鍵盤や弦が張られて音が出るようになるわけで、
既に待って3年・・・・・
ということで、夏の終わりには仕上がってくれると良いのですが。

私のチェンバロ装飾ほぼ終了!/La decoration de mon clavecin


昨日、パリより電車で20分ほどの郊外にありますChantilly(シャンテイイー)という街に
私のただいま装飾中のチェンバロを見に行ってきました。
今回で3回目ですが、毎回の変化に驚かされましたが、またしてもビックリ!
パトリックさん(2番目の画家)の描くお花は、本当に品が良く、柔らかな色で素晴らしいテクニック!
実は、1人目の画家の方に響板を描いて頂きましたが、予想外に色が濃く、あまり絵も美しくありませんでした。
その為、違う2人目の画家の方を探し、外側の装飾をお願いし、1からモチーフなど描くものを話し合い、決めていきました。
ちょっと反射していますが・・・分かるでしょうか。
現在の全体像。脇のお花、天使の部分はまだ未完成です。
もともとサイドはブルーグレーでしたが、蓋の内側の絵の色に合わないということで、パトリックさんのアイデアで黒い背景に茶色のラインが入りました。
2人の天使は、ちょっとリアル過ぎて蓋の絵と喧嘩するのでは!?と話し合い、消してもらうことになりました。もっとシンプルな植物のつる等に変更してニスを塗り、終了です。
まさに、世界に1台しかないチェンバロです!
ベンドサイドの天使。遠めで見たらきれいかと思いますが、毎日自分の部屋で見るか・・・と思うと、ちょっとインパクトが強すぎるかな・・・ということで、消されてしまいます!ごめんなさい。ばいば~~い
横に描かれているカーネーションのような、ローズのような・・・花
まだ、未完成の部分ですが、横のしっぽに描かれているチューリップの絵。
蓋の絵の一部分。フレミッシュ(オランダ)らしい、パイプを吸う男の人の描かれた本、リコーダー、そして楽譜。
楽譜の部分。
これは、私の大好きなラモーの*Les Soupirs*(ため息)というファクシミリの楽譜をパトリックさんにお渡しし、それを真似て描いてもらいました。
その為、始めの数小節は楽譜のまま!なので、冗談でコンサートのアンコールの曲がなかったら、この絵を見て弾きますね!と話したら笑ってました。

蓋の中央、楽器の部分
蓋の左側にあるお花のブーケ。私の大好きな部分です。
まるで1枚の絵のようですね。

これは、去年の夏に1人目の画家の方が描いた後の響板の絵。これから、弦を張ります。
しかし!描かないで・・・・と言った*蛾*(大嫌い・・・)が弾くとまさに目の前に見えます!
その他の色も統一感がなく、とてもモダンな色で仕上がっています。

この部分は、2人目の画家、パトリックさんが消せる部分は消し、上から新しく描いてくれました。
この違いにはビックリ! 茶色の蛾が可愛いお花に変わっていますね。(笑)
そして、キツイ色のチューリップが柔らかなアヤメのお花に・・・
なぜか?!描かれていた杏……の絵も、花の絵に変わっています。
素晴らしい想像力と技術に驚きました。
とても繊細な色調に生まれ変わり、ほっとしています。

10日後に全て装飾を終了し、私のドイツのチェンバロ製作者が片道8時間ドライブでチェンバロを取りに来て、ケルン郊外に持って帰り、これから一番大事な鍵盤や弦を張り、最後の調整です。
夏にはできるでしょうか・・・・すでに、3年の月日が流れました・・・・・・
まあ、一生使っていく物ですが、宝物ですね。

チェンバロの装飾 II/La decoration de clavecin II

今、装飾をしてもらっている私のチェンバロを、画家のアトリエに見に行ってきました。
チェンバロの蓋の内側の装飾。あとはニスを塗ってほぼ完成。
私のチェンバロはフレミッシュ(オランダ風)なて、今のベルギーにあるアントワープには、16,17世紀に大変盛んになった有名なチェンバロ工房がありました。
色あいをアンテイーク調に仕上げてもらいました。
彼らのチェンバロを贅沢に装飾する場合は、名画を数多く残した巨匠、ルーベンスや彼の弟子によりチェンバロの蓋の内側や外側を装飾して貰ったものが、今での各地の楽器博物館に残っています。
オランダらしい、パイプを吸っている人、ワインを飲んでいる人のデッサンが描かれています。これは、画家のアイデアです。
私のチェンバロも、今はフランスとドイツの国境近くにある街、コルマールにあるルッカスファミリーによって作られたチェンバロのコピーです。このチェンバロは10月に訪れた際に、本物のオリジナルを弾かせて貰いました。(詳細は10月のブログをご覧下さい)

私のチェンバロの装飾も、できたらオリジナルを忠実にコピーした絵にしようと始めは考えていましたが、楽器を見に行く機会がなかなか得られなかったことから、詳細の拡大写真がなくては、画家が模写できないという現実がありました。
その為、では私の好きなモチーフを描いてもらおう!

ということになり、結局オランダ絵画によく用いられるお花のブーケやフルーツ(ぶどう)、本など・・

そしてイタリア絵画で多く用いられた天使、楽器、ワイングラス・・・・などなどのモチーフを入れて描いてもらいました。
遠くに小さな風景画が・・・
この画家の方は、アンテイークの絵画のコピーなども制作したり、修復している為、現代の絵の具を使用してもこのように仕上げれる素晴らしい感覚の持ち主です。
あとは、チェンバロの横の部分に3つのお花のブーケを描いて下さるそうですが、楽しみです。

ルッカースファミリー/Ruckers Family

フランスとドイツの国境寄りにあるコルマールという町には、世界的に有名な17世紀のチェンバロがあります。
コルマール市にある貴重な絵画やチェンバロが保管されているUnterlinden Museum
このチェンバロ製作者であるルッカースファミリーは、17世紀にベルギーのアントワープ市で数多くの素晴らしい楽器を生み出し、その名声は隣国のフランス、ドイツ、イギリスに多大な影響を及ぼしました。

①Hans Ruckers(1550-1598) 1代目

②Ioannes Ruckers(1578-1642)Hansの息子
③Andreas I Ruckers(1579-1651/53)Hansの息子
④Catharina Ruckers
: Hansの娘で医師Calros Couchetと結婚し、生まれた⑤Ioannes Couchet(1615-55)が後に②Ioannes Ruckersの養子となり、1642年より工房の後継者となる。
⑥Andreas II Ruckers(1607-54/55) Andreas Iの息子
383年経ったオリジナルのルッカースを弾かせてもらいました。大変貴重な機会です。
このUnterlinden Musuemに保管されているチェンバロは、1624年 ヨハネス・ルッカースにより製作されたものです。1660年、1720年に大きな改造(ラバルモン)をされ、1980年にこの美術館が買い取りましたが、その際にもChristopher Clarkeにより修復され演奏可能の状態になりました。

ヨハネスによる現存するチェンバロは、他にもイギリス・エジンバラ(ラッセルコレクション)、ローマ楽器博物館、パリ楽器博物館、ヴェルサイユ宮殿にもあります。
ローマ楽器博物館は6月に思いがけず観る事ができましたが、鍵盤は4度ずれた移調鍵盤のまま残されている貴重な楽器です。
鍵盤の周りのフレミッシュチェンバロ(オランダ風)特有のアラベスクの紙は、1624年のオリジナルのままです。
コルマールのチェンバロも、1624年に製作された時には同じく上鍵盤(C/E-f3)と下鍵盤(C/E-c3)の音域が異なりましたが1660年に上鍵盤にショートオクターブが付け加えられ、低音を5音増やし(H/G-c3)になり、1720年には更に低音3音と高音2音を足し(G-d3)になりました。

しかし、オリジナルのルッカースの鍵盤の幅は大きめなので、フランス式の鍵盤の方が数ミリ小さい為、もともとの外のケースと響板はそのままで鍵盤数を多くできました。
ジャックは修復の際に新しいものにされています。
ルッカースファミリーが繁栄した頃、アントワープには絵画で有名なルーベンスやブリューゲルが住み、ルッカースのアトリエはルーベンス自身が設計した素晴らしいアトリエと1本違いのすぐ近くでした。
ルッカースのチェンバロ装飾をブリューゲル自身やルーベンスのアシスタント達により描かれた贅沢な楽器も現存しています。
Ioannes Ruckersのローズ
フレミッシュ風のチェンバロの響板には、植物の他に、果物や鳥、えびや蝶などが描かれていますが、17世紀当時それは*庭*を象徴されていたと私がお願いした修復画家は言っていました。
ブルーのフレミッシュ風のアラベスクはお庭の柵を意味し、その中には上記のようなモチーフが綺麗に描かれています。

また、アメリカの楽器研究家の説では、*5感*を表現しているということです。ルネサンス時代からヨーロッパには人間の5感をテーマにした美術品がありますが、パリの中世美術館にもショパンの恋人であったジョルジュ・サンドが所蔵していたという素敵なタピストリーが展示されています。

鳥=聴覚、花=視覚と臭覚、果物=味覚・・・・という具合に。
17世紀フランダース派(フレミッシュ)の絵画を見れば分かりますが、花の絵の中には実は*過ぎ行くはかなさ*を表現していたり、シンボルが沢山隠れています。

チェンバロの響板に描かれている花の花言葉なども調べてみると、色々なメッセージが含まれているかもしれませんね。
また、内蓋の絵も17世紀後半にフランスによって描き直されたものが現在の状態です。モチーフは、フルートの神様であるPANとリラを持ったAPOLLON、そしてMIDAS王が描かれています。

よく見ると、白い亀裂が入っているのですが、383年経った板ですからしょうがないですね。
蓋の裏の部分。
レントゲン等による調査から、外のケース(黒に金色の模様)の部分には、もともとルッカース特有の大理石風の模様が描かれていたことが分かりましたが、18世紀のフランスのサロンとは豪華な雰囲気でしたので、質素なフレミッシュ風の装飾とスタンドも造りかえられてしまいました。
ルッカースファミリーにより製作されたチェンバロは現在世界に100台余りあるようですが、ルッカースのモデルは17世紀、そして18世紀にも大変人気であった為、フランスでも*ルッカース風*の偽者のチェンバロを作る製作者も増えていたほどです。
1748年フランス・リヨンで製作されたルッカースのスタイルを真似たチェンバロ。猫足のスタンドはフランス風なのでミックスしています。
1748年Lyonとありますが、ルッカース風の紙が使用してあります。この楽器も最近パリ近郊の楽器修復家が修復して演奏可能の状態です。

ただいま装飾中!Vol.2 /en train de faire la decoration Vol.2

今日は、現在製作途中の私のチェンバロを見に行きました。
チェンバロの製作家はドイツ人ですが、装飾の絵はパリ近郊に住んでいるアンティーク修復画家の方にお願いしています。
打ち合わせをして日本へ留守にしていたので、さてどのように仕上がったのでしょうか!?!
連絡を取ると、忙しくてまだ一部しか仕上がっていないということ・・・・が~ん。。。。
太陽の光が差す素敵なアトリエ。
日本の様に予定通りとは、全くいかない!
既にドイツからパリに装飾の為にチェンバロが来て5ヶ月!注文してから2年の月日が過ぎているのに・・・・・
しかし、見せて貰うと何とも言えない柔らかい色調。
私のチェンバロがフレミッシュ(オランダ風)なので、装飾もその当時のフランドル派のスタイルで描いてもらいました。ブリューゲルやルーベンス、レンブランドなどの闇と光を表現したスタイルですね。
まるで1枚の絵画のようです。
第一印象は、現代の色に慣れている私の目からしてもちょっと薄い色調。
しかし、目が慣れるに従い味が出てくる。
この花のブーケは内蓋の一部です。ご覧のとおりまだ右側の部分はこれからです。
後ろにある風景の描かれたチェンバロの蓋は、1703年製作のN.Dumontのオリジナルのものです。この外蓋も、これから修復するということですが、オリジナルのチェンバロの色と比べてもあまり違和感のない色調を出せる画家は少ないと思います。

ということで、まだ仕上がるには・・・・最低1ヶ月はかかるらしいので年内に楽器が仕上がるかも未定・・・・ですが、急いで納得いかないものになるよりは、上質の物に仕上げてもらいたいので、辛抱強く待つことにしました。
ハイテクの進化した現代でも、楽器作り、絵画は昔と変わらず1つ1つ手作りです。
だからこそ生まれる味わいがあるのかもしれませんが、時間がかかります。
同じ画家の方の作品。これは1つのバラを描き、ここにも描き・・・と御自分で描いた作品ですが、色のコントラストが素敵ですね。
今回2人の装飾画家にお願いしましたが、(1人は響板)やはり最終的には技術ではなくてその人のセンスが大事なのだと感じました。
センスが異なる人には同じ*花*でも描く*花*の繊細さ、色あいが全く異なります。
本当に細かいことですが、一筆一筆が作り上げる世界の差はとても大きなものです。
そして、いくら説明してもやはりセンスが異なる人には通じなかったり、逆にセンスが良い人は何を描いて貰っても安心できるという所があり、音楽と通じるなと思いました。
残りの装飾部分は、やはりフランドル派が多く取り上げたMomento Mori(死を忘れるな)というテーマを取り上げて描いてもらうことになりました。
モチーフは楽器や蝋燭、ワイングラスやぶどう、遠くに風景・・・・というものですが、配置などは全てお任せにしました。
ということで、いつできるかは・・・・謎です!?

チェンバロの装飾/La decoration de clavecin


8月のパリは雨続きだったそうで、この数日は晴れていますが、すっかり秋の風です。夜は寒いくらいなので、既にコートやジャケットを着ています。
さて、春にはドイツから届いていた私のチェンバロの響板の装飾が終わりました。
装飾をお願いしたのは、フランスのチェンバロメーカーで100台以上描いていたスペシャリストのシャルルさん。
イタリア風の装飾のサンプル。
右はしの金色の部分は金箔ではなく、銀箔の上に金色の塗料を塗り金箔風に仕上げたもの。
イタリアの建築の天井などには、この様に金箔に見せたいけれどお金が足りない時にこのテクニックを使っていたそうです。

彼は、チェンバロ装飾以外にもアンティーク家具やシャトーのお部屋などの修復・画家としても多くの著名人宅で仕事をしています。なんとデザイナーのエルメス(Hermes)のオーナーである3兄弟のご自宅(オルセー美術館のすぐ近く)で家具の修復をしたり、同じく有名デザイナーのカール・ラガーフェルドの自宅でも1年近く金箔をアンテイーク家具に張る仕事をしていた・・・そうです。
でも、シャルルさんはどちらかというと山小屋に住んでいるタイプ。一体?
聞くと友人が紹介してくれたということで、パリはやはり人とのつながりが大事なようですね。
エルメスさんの持つモロッコにある超高級ヴィラの部屋に絵を描いてと頼まれたそうですが、パリの家から長期間離れるのが嫌!?ということで、断ったそうです。(笑)
こちらは、本物の金箔を使用した独自のデザインの鏡や額縁のサンプル。上の塗った金色との差が分かりますね
シャルルさんは、メールもしないし携帯も留守電のみ。根っからの芸術家気質で、どんな所に居ても建物などの装飾を見てインスピレーションを貰い、即興でモチーフを描いたりします。17・18世紀の絵画の模写や修復する技術は全て独学だそうです。
中央は大理石を真似て描いた部分。
ヨーロッパの多くの建物にこの技術が使われ、遠めでは大理石に見えるが実際は描かれているものが多くあります。

数回に渡ってチェンバロの本体の色とのバランスや、フレミッシュ(オランダ・ベルギー地方)スタイルの装飾やモチーフを話し合い、アイディアをまとめて描いてもらいました。

響板(弦の張ってある部分)にいよいよモチーフを鉛筆でデッサンし始めます。
ローズ(ばら)と言われる楽器の製作者のイニシャルなどが残される部分の装飾
17世紀フレミッシュチェンバロの典型的なブルーでモチーフを描き始めます。
見ていたら楽しそうだたので、私も描かせてもらいました。薄く、デリケートに少しずつ描くのがこつだそうです。
こうなりました!このモチーフの間にその後描く花や鳥のモチーフなどの配置を決めていきます(セロハンテープのメモがその内容)
この模様を全体にバランス良く描いていきます。仕事中のシャルルさん
花を描いた後。
チェンバロの先端部分のチューリップ
完成しました!
と言っても、実はブルーのモチーフを描いていた時は私も見ていたものの、実際に花などが描かれ始めた1週間は留守中でした。
帰宅して見た第1印象は・・・・・ちょっと、色がきつすぎないかい?!
これは・・・・蛾?!?蝶?やっぱり、私の大嫌いなガにしか見えない!!
しかも、鍵盤の目の前でこのガを毎日見て弾くのは・・・・・
フレミッシュチェンバロの響板の装飾は、ブルーがお庭の柵という概念でその中に植物、野菜、昆虫や鳥などを描き、ガーデンを表現しているそうですが、お願いだからハエやいも虫は描かないでと念を押しましたが・・・ガが・・・・
ということで、この仕事を終えてとっとと3週間もポルトガルにバカンスに行ってしまったシャルルさんに説明して訂正してもらう予定です。
もう少し柔らかい色にして貰おうと思いますが、この後弦を張り、蓋から反射して受ける光やほこりで色あせていくので問題はないそうです。
しかし、この後にチェンバロの蓋の内側に風景画を描いてもらう別の画家の方がチェンバロを明日取りに来るので、訂正はその風景画終了後の10月末予定・・・・
という具合にどんどんと完成する日は遅れ・・・・既に待つこと2年半。
ドイツのチェンバロ製作者にクリスマスにはできるかな?!?と聞いたところ、
それは大丈夫!サンタ クロースが持ってきてくれるでしょう・・・・・と。
本当でしょうか。日本のきっちりした期限までに仕事をしてくれるシステムからすると、もう比較になりませんね。その為、帰国する度に日本の行き届いたサービスに感激してしまいます。まるで浦島 花子のように。 

チェンバロができるまで 1・・・/jusqu’a le clavecin sera finir

パリはこの1週間ほど毎日、晴れのち曇り+にわか雨+風
という良く分からない天気です。
日本の梅雨のような感じでこれが終わると本格的な*夏*が来るのでしょうか。
その1:ドイツからパリにチェンバロが運ばれてきたの巻き
さて、2年前に注文した私のチェンバロがドイツから来ました!
といっても・・・・

ご覧の通りまだ鍵盤も弦もないですねえ。。。。はい。
外枠はドイツで私の希望により、大好きなブルー2色
(イギリスの食器Wedgewoodのようなブルーが蓋に塗ってありますが、チェンバロ本体の後ろに立てかかっています。と薄いスカイブルー)
に塗ってもらい、響板(弦を張る三角形の板の部分)に装飾の絵を塗ってもらう為にパリに一時的に来たわけです。
チェンバロが届く日、始めは2時ごろに着くからと言われ、待てども待てども来ない!交通事故にでも遭ったのでは?!?!と心配し疲れて11時半頃に車の音が外で・・・・
一体どうなっちゃってるの?!?!と聞いたら、実は最後のペンキの仕上げが間に合わなかったので4時半まで塗っていた・・・と。
電話1本してくれれば良かったのに~~~。と大変なことになってましたが。
こういうことは日本では考えられませんが、ヨーロッパ人の感覚では大いにありえるらしく、私達もある意味そういうアバウトな人間にならないと神経持ちませんね。

その2:チェンバロができるまで一体どれくらいかかるのでしょう?!?!

響板:薄さは2-4ミリと場所によって微妙に違うようで、この板が楽器の命。音色の違いもここで大きく変わります。
仕事の早い製作家が1台のみ集中して作ってくれれば、3,4ヶ月でできるようですが、製作家によって1年に2台しか作らない。とか色々ペースが違い、注文してもすぐに来るわけでなく、既に注文している人が4人居ればそのチェンバロができてからでないと、私の分は作り始めてくれないわけです。
そして、世界中どこの楽器製作家に注文しても、みんな
 *こない~~~。こない~~~~。まだ、できないの~~~!?!??!!
3年待ちって言ったのに、もう5年目なんですけど~~~!*
と痺れを切らしている音楽家たちの声しか聞いたことがないというほど、遅れる!!早く着たとは聞いたことないですね。
私の場合、始めは1年待ち!!!という何とも明るい未来!のようでしたが・・・既に2年経ち・・・しかも終わっていない・・・・

チェンバロができるまで 2・・・/jusqu’a le clavecin sera finir

その3:どの足がいいでしょう?
昨日、私の製作家からチェンバロを乗せる台の足を作ったけれど、どれがいいか選んで!と写真付きメールがきました。
私の注文しているのはフレミッシュ式のチェンバロなのですが、17,18世紀に作られた博物館にあるチェンバロのモデルを忠実にコピーする場合もありますが、フレミッシュの足は・・・・
ちょっとダサい・・・・・わけです。ゴツかったり、何ともシンプルすぎたり・・・
1640年Andreas Ruckersのチェンバロ。
私のチェンバロはオリジナルのモデル(フランス・コルマール(ストラスブールの隣町)の美術館に保存されているフレミッシュ風チェンバロ)をそのままコピーするというより、私の趣味が随分入っていますね。
外観の色もオリジナルは黒が基調で蓋の内側は絵が描かれています。
足も結構、がっちりしていてフランスに運ばれて質素なフレミッシュ風のモデルからゴージャスなフランス風にアレンジされて、金色も随所に使われています。
フレミッシュ風のチェンバロ。外枠に大理石を模倣したフレミッシュ風な装飾。
ちょうど、私の次に注文した楽器はオリジナルと全く同じ装飾をストラスブールで描いている最中ということで、私の楽器を隣合わせにしたら大きく異なるけれども、製作家が同じなので音色は似ていて面白いでしょうね。
その4:チェンバロの製作家を求めて3千里!!
楽器製作家1人1人の*音色*は勿論、タッチ、弾き心地、響き方から作りから全て違います。
それは、洋服の仕立て屋さんでも1件1件違うように、自分にあった洋服、気心地良い洋服が違うのと似ているでしょうか。
とにかく私は、(チェンバリストみんなそうですが)自分に合ったタッチの楽器を作ってくれる製作家に出会うまでが時間がかかりました。
アメリカ時代から7年越しに探して色々見てやっと*これだ*と思う楽器を作る人に出あったのですが、工房に行くにしてもケルンから電車を乗り継いで、湖や山合いのど田舎で1人で木を彫って鍵盤1つ1つを作っているわけです。

チェンバロ製作家・Luts Werumのアトリエ前にて。
ということで、いつできるのでしょうか・・・・
その5:装飾はどうするの?
パリに来たのはいいけれど、今度はアンテイーク装飾家でチェンバロを既に200台あまりも装飾した画家が、私の留守中の先月全て塗ってくれることになっていたのですが、帰ってくると何もしていない・・・・・・ありえない・・・・
どうやら、私が居なくなってすぐに他の大事な仕事が入って、家の修復兼描いているとのことで、私の楽器は8月からしか塗れないことになりました。
私の製作家もとっくに塗り終わってパリに取りに行こうか!と考え、2日前に電話をくれたのですが、塗り始めるのは8月です。と言ったら絶句・・・・
オリジナルルッカースの響板の装飾
普段は自分の仕事が遅いのに、
*それは困る~~~!*
と迷惑がっていましたが、私はそれにも慣れてしまいました。
私がどんな気持ちだったのか分かったでしょ!と言ったら笑ってましたが。
ということで、いつできるのやら….
また装飾が始まりましたら、装飾写真日記の様に載せます。
ということで、チェンバロができるまでは長い、長~い道のりがあるわけです。
チェンバロの作り方を勉強すれば、自分で組み立てられるキットという木の板のセットを買うこともできるのですが、やはり*美しい音*を生み出す楽器は経験と感を培ったプロにお任せする方が良いと思います。
昔、自分で作るタンスですら、違うレールに違う引き出しをくっつけてしまったり、結局半年あまりで粗大ゴミと化してしまったので、私は立ち入らない方が無難そうです。

季節の移り変わり/Le changement de la saison


今日は、ぽかぽか陽気でコートなしでも大丈夫なお天気でした。

嬉しいのと同時にこの季節の移り変わりの中で思わぬ異変が・・・・
いつもの様にチェンバロを弾いてみたら何かがおかしい・・・?
タッチの深さがいつもより浅い気がする・・・
ということで、急に暖かくなったので湿度が下がりやすくなり、ほぼ毎日調律が必要なこの頃です。
チェンバロは小さな部品を除いてほとんどは木でできています。ピアノの様に鉄板は響板には使われていません。
その為、ちょっとした温度や湿度ですぐに弦が緩んだりして調律が狂ってしまう繊細な楽器です今日は、要するに季節の変り目でチェンバロの木全体が変化した為に、鍵盤全体が2ミリほど下がってしまったのだと思います。
こういう時は、チェンバロの下に潜り鍵盤の下の部分にあるネジをくるくると回します。
そうすると、鍵盤自体を0.5ミリ-2ミリくらいの範囲で上下に調整できます。
見えないほどの変化ですが、チェンバロの木も呼吸して四季折々変化しているのを感じます。


また、最近買った加湿器は超音波の最新式なのですが友達のチェンバリストが、パリの水道水はカルキが一杯あるからミネラルウォーターを使わないと部屋中真っ白になってしまうよ!
と教えてくれました。まさか~~~~と思っていたら
ふと気が付いたらTVの画面が白っぽい・・・・拭いてみたら画面が真っ白になっていることがより分かり。。。。
ありえない!こんなにカルキが含まれているなんて。。。
と考えたら飲むのもお風呂に入るのも・・・・一体大丈夫なのか?と考えてしまいました。
でも、ほっておくと32%にまで下がってしまう部屋の湿度を約50%(チェンバロの心地よい湿度)に保つにはほぼ1日中付けておかないといけません。
加湿器もミネラルウォーターにした方がいいのか、考え中です。日本だったらそんな心配しなくていいのに!

オリジナルのチェンバロ/le clavecin original


今でもヨーロッパには17・18世紀の頃に作られたオリジナルのチェンバロがあちこちに残されています。
保存状態が悪いものもあれば、代々貴族などの館に大事に保管されていたものは、極めてきれいな状態で残っており、今でも演奏可能なチェンバロもあります。
オリジナルチェンバロとは、アンティークチェンバロと同じ意味で300年前などに実際にヨーロッパの貴族や王族の為に作られ、演奏されていたものです。
1704年のフレンチチェンバロ
数少ない世界中に残っているオリジナル楽器は1つ1つ持っている音色が違います。それは、まるで人間の声が誰1人たり全く同じ声の持ち主が居ないのと同じです。
数世紀たった今も蘇る*音*を聞きたくて、古楽奏者は世界中のオリジナル楽器のコレクションを機会があるごとに訪れます。

フランスにもかなりの数のオリジナル楽器が存在しているようですが、博物館の他にプライベートの邸宅に所有していらっしゃる方々も多いようです。
オリジナルの楽器は値段が付けれないほどの希少価値ですが、ある所有している方は売るとしたら1億以上の価格が付いているということを聞きました。でも、売る気はないそうですが。
先日、パリのチェンバロ制作家の工房でオリジナルのフランスのチェンバロを見せてもらいました。
鍵盤の部分
まだ修復が必要な状態ですが、比較的きれいに残され装飾の絵画もとてもきれいです。
特別に写真を取らせて頂きましたが、勿論どなたが所有していた楽器かなどの詳細は企業秘密のようです・・・・
この楽器が修復され、どんな音が蘇るのか想像すると、すごいことですね。
良い修復家は、昔の技術や手法を尊重して必要な部分のみ修復し、少しでも当時に近い*音*を目指します。
蓋の内側に描かれている風景画。これだけでも、芸術品ですね。
修復家によって、復元される*音*が変わってしまうので、音楽家は楽器を見つけるのにまず一苦労ですが、その先にどの修復家に頼むか・・・そして大体数ヶ月ー数年かかり、やっとできたら運送はどうするか。日本に輸送する場合の税関など・・・・・など・・・家に来たら加湿器などで常に一定の湿度や温度に保つようにと・・・・気をつけないといけないことも山ほどです。
チェンバロ製作に必要な数々の道具
それでも、みんな*良い音*を求めてそんな苦労は何のその!!とばかりに
楽器熱はやみません!

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